朝、ベッドから起き上がると、私は妄想する。

家の中に私以外誰もいない。お母さんも、お父さんも、弟も。本当に誰もいない。慌てて家の外へ出てみると、人がなければ車もない。私は独りで泣き叫ぶ。誰か帰ってきて、と。

昼、クリームソーダを飲むと、私は妄想する。

小人となった私は、アイスクリームの上に立っている。あまい匂いが、私の鼻にそっと触れる。バニラアイスを両手で掴んでなめる。おいしい。ソーダ水を両手で掬って飲む。おいしい。お腹がいっぱいになると眠くなる。私は無意識に瞳を閉じる。

 夕、ニュースを見ると、私は妄想する。

 テレビ画面に映しだされた痛ましい事故現場。道路に散乱したバッグの中身。アスファルトにこびりついた鮮血。その一つ一つの映像のかけらが、まるで、パズルのピースがはめられてゆくように組み合わせられ、一枚の凄惨な絵画が完成する。

 夜、湯船に浸かると、私は妄想する。

大量の小さい魚たちが、湯船へ向かって排水溝を逆流し、その蓋へどんと体当たりする。蓋を吹き飛ばし湯船へ侵入する。私の無防備な皮膚を鋭利なくちばしで突く。突き破る。私の血がとめどなく流れだす。湯船がまっ赤に染まると、魚たちは帰ってゆき、私は気を失う。

しばらくして目が覚めると、私は、菜の花畑にいる。小指ほどの蝶たち、消えないしゃぼん玉がただよう。

「いっしょにあそぼう。」

うすいピンク色のワンピースを着た少女が、かれんな手のひらを、私へさしのべる。私はその手のひらに、自分の手のひらをかさね合わせ、うなずいて見せる。少女は微笑して、私の手をにぎり、ゆっくりと足をふみだす。私もふみだす。パステルカラーの空。白いちぎれた雲は天使の羽。風が吹いて、天使の羽が落ちてくる。少女はその羽を拾って、背中につける。私もつける。少女と私はもう一度手をつなぐ。私たちは水色の空へすっと吸いこまれてゆく。

その後のことは……私も知らない。